嫁です。サイトスペシフィックとは作品が特定の場所に帰属する性質を表すもの・・・ちょっと難しい・・・です
失礼にも一見ぱっとしませんが、きっと誰かと語りたくなる、魅力的な美術館でした。
奈義町ってどこ?
岡山県奈義町。鳥取県との県境に近い山麓です。中国山地を北に望む高原地帯であり、那岐山がそびえ、自然にあふれた場所です。
美術館は町の中心に位置する奈義町役場の西のカルチャーゾーンの中心として機能しています。町の図書館も併設されており、文化的役割を担います。
ナギモカ
なぎもか?聞いたことありませんか?
奈義 Museum Of Contemporary Art
NagiMOCA、ナギモカです。なんともおしゃれ。同じく磯崎新さんが設計された、ロサンゼルス現代美術館の通称「MOCA」になぞらえているのでしょうか。
アクセス
岡山駅から車で2時間。岡山空港からは約1時間30分。ひたすら走りますが、わりと一本道で分かりやすいです。津山でB級グルメ、ホルモンうどんを楽しみながら、車での訪問をおすすめします。公共交通機関一択の方は最寄のJR津山駅から路線バスが出ているのでご利用ください。
概略
荒川修作さん+マドリン・ギンズさん、岡崎和郎さん、宮脇愛子さんの3組の作家の作品を展示するために建てられた美術館です。企画展を行い、流行を追った七変化の美術館も多い中、一つの作品の魅力を最大限に魅せてくれる美術館、というのも乙ですね。作品たちにとっては何ともうれしい終の棲家でしょう。
奈義町現代美術館(通称NagiMOCA/ナギ・モカ)は作品と建物とが半永久的に一体化した美術館です。
太陽、月、大地と名付けられた3つの展示室から構成され、この土地の自然条件に基づいた固有の軸線を持っています。
借景には秀峰那岐山を望め、日毎、季節ごとにその表情の変化を据えることができます。
奈義町現代美術館 公式ホームページ
建築
奈義町現代美術館は平成6(1994)年にオープンしました。世界的な建築家、磯崎新さんが手がけています。
磯崎さんは2019年には建築界のノーベル賞、プリツカー賞も受賞されています。
第三世代の美術館
磯崎さんは美術館を3つの世代に分けて提唱されています。
- 第一世代の美術館は、18世紀末までに成立した、王族貴族のコレクションを公開する目的で設立されたもので、宮殿や歴史的建造物に展示されています。ルーブル美術館など彩り鮮やかな壁に豪華絢爛に飾られているさまが思い浮かびます。
- 第二世代は、企画展を魅せることを中心とした白い壁、いわゆるホワイトキューブと呼ばれる展示空間をもつ美術館です。MoMAなどが有名です。
- 第三世代は、特定の場所に存在するために制作された美術作品を展示し、その場でしか体験できない作品を提供する美術館です。
同時に、この奈義町現代美術館を「第三世代の美術館」として位置づけました。そして、これが冒頭で触れた、サイトスペシフィックな(特定の場所に存在するために制作された作品を展示する)美術館と呼ばれる所以です。
奈義町現代美術館は、作品と建物が半永久的に一体化した公共建築として世界で初めての美術館なのです。
今でこそ地中美術館(2004年)や十和田市現代美術館(2008年)、豊島美術館(2010年)など、このようなスタイルの美術館を数多く見かけますが、これらの10年以上も前に新たな展示方法に注目されていたとは、規格外の巨匠ですね。
心に残ったことば
磯崎さんのお言葉で心に残ったものを紹介します。
この内部は、特定の作品のための、固有の空間となり、展示替えをするニュートラルなギャラリーではない。これを比喩的に説明するには、寺院の金堂を思い浮かべればいい。そこでは仏像がまず創られており、建物はそれを覆う鞘堂として建設された。美術館という枠が拡張して、美術品と建物が一体化している。私はそういう状態をつくりだすことが、すなわち≪建築≫であると考えている
奈義町現代美術館 常設カタログ「Nagi MOCA 磯崎新」より
寺院からイメージのヒントをつかむとは・・・先人の知恵、やはり光るものがあるのですね。
作品鑑賞
大地≪うつろひ-a moment of movement≫ 宮脇愛子
入り口を抜けるとまずは中庭のような空間に出ます。こちらは「大地」の部屋。水面の上に細いステンレスワイヤーが弧となり、時折風に揺れて景色を変えます。
端の廊下を抜けると今度は暗い地下のような建物内部へ。敷き詰められた黒い石を横に、石板の廊下を進みます。
陽から陰へのグラデーション、光と影の中に立ち現れる森羅万象のうつろひを感じる体験でした。
「在る」と「無い」を渡る。〈これ〉、「心」とはそうしたものではないだろうか。
奈義町現代美術館 公式ホームページ
ここでは演奏会などのイベントも開かれているようで、私が訪れた際も素敵な音色が流れていました。
ちなみに宮脇愛子さんは磯崎新さんの奥様でもあります。
月≪HISASHI-補遺するもの≫ 岡崎和郎
「大地」の部屋を抜けて階段を上ると、「月」の部屋につながります。意識していないと分かりにくいですが、部屋自体が三日月のかたちをしています。そして白い大きな平面の壁に3体の黄金色の「HISASHI」(庇)たちがいるのです。
自然界にも庇のように生物が日差しや雨風をしのぎ、休息できる岩陰や木陰のような空間が存在します。そして「HISASHI」の反対側には人が休息できるベンチが用意されています。
作品の題名にもある、「補遺」とは部分を通して全体を見通すための概念。「月」の部屋は円の一部である三日月の鞘の空間の補遺の庭なんだそうです。
また、室内には「月」の両端から自然光が入ります。中秋の名月の夜10時、月の光はちょうど大平面の白い壁を滑って影を落とすそうです。
太陽≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫ 荒川修作+マドリン・ギンズ
最後に「太陽」の部屋です。いよいよ外観からみた金色の巨大太鼓の中へ、突入です!
前室にある、傾いた円筒状の中に展示室への細い階段があります。昇る人、降りる人どちらか一方のみの交互通行。譲り合って見学です。そして一切の光源は見当たらず、真っ暗闇を進まなければなりません。どきどき感最高潮。
昇った先にあったものは・・・
逆光で暗い・・・すみません。
太鼓の白い皮面から自然光がそそぎ、部屋の風景がぼうっと浮かび上がります。まるで異次元にでもワープしたかように。そんな感覚を覚えました。
ようやく全景をつかめるよう目が慣れてくると、龍安寺の石庭を模した枯山水が両側面に。床と天井には同じ形のシーソーと鉄棒にベンチ。遊具たちは天井の方が1.5倍大きいです。床は赤色、天井は緑で塗分けられています。
後に学んだことですが、補色(赤と緑)の色使いは距離感を喪失させるそうです。
もっと奥まで進んで隅々まで見て体感して、作品を理解したい。そう思って歩き出しますが、ふらふら足元が安定しません。何かにつかまりたいほどに。巨大な円筒形の部屋自体が傾き、無重力空間に浮遊するかのようにバランスが保てないのです。もちろん、無重力空間味わったことありませんが。
石庭という自分よりもずっと昔からある揺るぎない景色が、ここでは歪み、上か下か右か左か・・・意識までもがふわふわします・・・
私の場合、浮遊する感覚が気持ち悪くなって長くは居られませんでしたが、ここで意識を集中させることができれば、今の私は新たなパワーや感覚を身に着けていたかもしれませんね。
住所・営業時間
岡山県勝田郡奈義町豊沢441
9:30~17:00(最終入館 16:30)
休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は開館)および祝日の翌日
駐車場あり
観覧料金
一般・大学生 700円
高校生 500円
小・中学生 300円
感想
いやぁ、圧倒されて心地よい疲れに襲われました。大自然の中、大地と月まではのんびり楽しんでいましたが、太陽で放り出される。世界の巨匠の意識に近づくにはまだまだ修行は必要そうです。